聴くだけの英会話で本当に身につくのか

英会話教材として大ヒットを記録した「聴くだけ」の教材があります。その教材を常に聴いていれば、自然と英会話が身につくと評判になったものです。

このような教材は有名人の利用実績などを前面に打ち出すこと、さらにはさまざまな媒体に広告を展開することでその認知を広げ、一気に普及したものです。英会話教室に通う暇などない現代人の強い味方として、さらには普及した携帯音楽プレーヤー、スマートフォンなどの後押しもあり、英会話教材の黒船として、また英会話教室に対する「驚異」として君臨したのです。

ただ、流行することと「実際に英会話が身につくのか」、ということは別の問題です。本質は「英語でコミュニケーションがとれるのかどうか」ということであり、「流行していること」がその裏打ちにはならないのです。どのような教材を用いたとしても、英会話の習得には時間がかかります。一気に普及したその教材で、本当に英会話を習得した人がいるのかどうか、それは広告だけでは疑わしいものなのです。実際には誰もが学んでいる段階であるにも関わらず、多くの人がその教材で英会話を習得したかのように見える広告表現は、いささか疑問を抱かざるを得ません。

「英会話」というものは「英語を用いた会話」です。コミュニケーションそのものです。音を聴くことをメインに置いた教材は、ヒアリングのチカラこそ身につくかもしれませんが、実はそれだけでは「話す」ことができるようにはなりません。ある程度年齢が過ぎてしまった人が新しい言語を身につけるためには、「訓練」が必要です。理屈抜きで言葉を覚えることができるのは母国語が定着するまでのことで、ひとつの言葉が定着してしまったあとに新しい言葉を覚えるのは必ず母国語と照らし合わせながら、また自分がイメージできる音に変換しながら発音する「訓練」が必要です。

そしてなによりも「コミュニケーション」しながら覚えるということが必要で、ただ教材を聞き流すだけではコミュニケーションができません。口から発した言葉を受け止め、さらに投げ返してくれる「相手」がいてはじめて英語のコミュニケーションは成立します。英会話の訓練においてそのような相手になりえるのは「講師」です。ですから英会話習得は「教室」がふさわしいのですが、ただ教材に触れるだけでは一方的に英語を聴くだけで、こちらから話す「相手」がいないのです。

コミュニケーションは必要だから発生するものです。つまり、その「場」、「環境」が生み出すものです。ただ英語で収録された教材を聴くだけでは、「耳」は鍛えられるかもしれませんが相手に伝わる「言葉」を習得することはまずできません。聴くだけ、いつでもいい、自分の時間を有効に使って学習ができるということは一見素晴らしいことに思えるのですが、その実「英語を話す必要がある環境」を得ることができなくなるということでもあります。

それまで、英語を話さなくても生きてこれた、英語を話さなくても仕事ができていた、そのような人であればあるほど、「英語を話す、英語でコミュニケーションする機会」を無理にでも得なければ英会話の習得などはできるわけがないのです。「言葉」というものはそれほどまでに「難しいもの」であるということです。

 

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